心房細動と関係の深い疾患のおはなし
心房細動と関係の深い疾患、特に気を付けたいことについて理解しましょう
心房細動と糖尿病
糖尿病は、実は心房細動発症の要因の1つであり、糖尿病患者さんは特に心房細動になりやすいことが知られています。そして糖尿病に加えて、肥満や高血圧、糖尿病性腎症などを合わせて持っている場合、心房細動の発症リスクはさらに高まります1。
糖尿病があると心房細動のリスクは2倍
高血圧が加わると3倍に上昇します2
スウェーデンの地域住民約1,700 例を対象とした研究では、心房細動の発症について以下のことが報告されています。
- ▪Ⅱ型糖尿病も高血圧もない人:心房細動のある人 2%
- ▪Ⅱ型糖尿病があり高血圧がない人:心房細動のある人 4%
- ▪Ⅱ型糖尿病と高血圧の両方がある人:心房細動のある人 6%
なぜ糖尿病患者さんに心房細動が起こりやすい?
糖尿病によって心房細動の発症リスクがなぜ高まるのか、実のところ原因は未だ解明されていませんが、いくつかの仮説が提示されています。一説には、糖尿病の三大合併症の1つである末梢神経障害が原因といわれています。長期に続く高血糖状態が心臓の動きをコントロールする自律神経を障害し、その結果、心臓の拍動にも異常が生じて心房細動が発生するという考えです³。その他にも、糖尿病による心筋症、心房筋の線維化、酸化ストレス、炎症などが関係することが指摘されています⁴。
高血糖状態の持続が、自律神経障害を引き起こし
心房細動が発症すると考えられます
心房細動の早期発見のために糖尿病患者さんが特に気をつけたいこと
心房細動は早期に適切な治療を行うことで、脳梗塞発症のリスク軽減や根治を目指すことが期待できます。日常生活でのちょっとした心がけが、心房細動の早期発見につながります。
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● 脈拍を毎日確認
最近は、家庭血圧計で脈拍を測定できます。正常でない脈拍値が続く場合には、心房細動などの不整脈である可能性があります。また、AppleWatchなどのスマートデバイスでも脈拍を確認でき、日常的に装着して取得したデータを診療に用いることがあります。
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● 脈の乱れを感じたら、脈拍を自己チェック
日常生活の中で動悸など脈の乱れを感じたら、手首に指を当てて脈拍を確認しましょう。
詳細については、「知っておきたい!不整脈を自分で見分けるセルフチェック」のパートにてお話しします。 -
● 年に一度は健康診断で心電図検査
健康診断では心電図検査を行うのが一般的です。脈の乱れがあれば、心電図検査で異常を検出できます。年に一度は健康診断を受診しましょう。
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● 異常を感じたら、近くの循環器内科へ
脈の乱れを感じたら、できるだけ早期に医療機関で相談しましょう。
問題がなければ安心にもつながります。 -
● 糖尿病治療が心房細動の予防に大切⁵
糖尿病で心房細動が発症しやすいのは、高血糖が原因です。まずは、血糖値をしっかりコントロールすることが大切です。
我慢しなくていい、
糖尿病患者さんのためのバランスレシピ糖尿病患者さん向けの食事は、実はバランスが取れた健康的な食事。食べる量に気を付ければ家族みんなで一緒に食べることができます。ここでは3 日間の献立を紹介しています。ぜひ毎日の食事の参考にしてみてください。
「朝食」「夕食」の献立を踏まえて選び方を見直せば、昼食にコンビニ弁当を活用することもできます。
- 1. Zethelius, B et al. Diabetologia. 2015; 58(10): 2259-2268.
- 2. Ostgren, CJ et al. Diabetes Obes Metabol. 2004; 6(5): 367-374.
- 3. Coumel, P et al. Arch Mal Coeur Vaiss. 1978; 71(6): 645-656.
- 4. 淀川顕司, 清水渉. 日本医事新報社.No.4781 P.58 (2015/12/12 発行)
- 5. Korantzopoulos, P et al. Int J Cardiol. 2008; 125(3): e51-53.
心房細動と透析
透析患者さんが心房細動を持つ割合は、世界的に5.6~27%(日本人透析患者さんでは5.6~9%)と報告されており6-8、一般平均9と比較して高いことがわかります。
またその割合は、高齢になればなるほど、また透析期間が長くなればなるほど高くなることが明らかにされています7,8。
透析患者さんが心房細動を持つ割合は、一般平均よりも高い
なぜ透析患者さんに心房細動が起こりやすい?
透析によって体内の水分が除水され、水分量や電解質の量が変化することにより、交感神経が活性化されて、不整脈が起こりやすくなります5。
透析患者さんと心房細動
透析が必要な慢性腎臓病の患者さんは、様々な要因から心房細動が起こるリスクが高くなるといわれています。例えば、透析が必要な慢性腎臓病の患者さんは、高血圧・糖尿病などの病気にも罹患していることが多く、心臓の壁が厚くなっていたり(心肥大)、あるいは心臓が収縮する力が落ちることでも、心機能が低下して血液が体内に上手く循環できない状態(心不全)となり、心房細動が起こりやすくなります。また、動脈硬化によって血流が低下している方や、心臓にある弁がうまく働かなくなる病気(弁膜症)をもつ透析患者さんでも、心房細動が起こりやすいといわれています。
透析患者さんが特に気を付けたいこと
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● 水分やカリウムの取りすぎに注意10
透析患者さんは、体内の水分量の変化によって心房細動が起きやすくなります。むくみがひどい、体重増加が目立つ、横になったときに息苦しい、普段より血圧が高いといった症状が現れたときは、早めに担当医師に相談しましょう*。
また、通常は不要なカリウムは尿と一緒に排泄されますが、腎臓の機能が悪いと体内に溜まりやすくなります。心房細動発症の原因のひとつにカリウムの過剰摂取が挙げられまずは、これを予防するために、カリウムを多く含む食品には注意が必要です。*透析間隔が2日以上空くと、体重増加がしやすくなるといわれています11。
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● 日常生活の中で脈拍に注意
透析中以外に、日常生活において動悸や脈の乱れを感じたら、手首に指をあてて脈拍を確認しましょう。最近は、家庭用血圧計でも脈拍を測定できます。正常でない脈拍値が続く場合には、心房細動などの不整脈であるため、必ず担当医師に相談しましょう。
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● 心房細動の治療を進める上で気をつけたいこと
心房細動の治療では、脳梗塞の予防として、通常は抗凝固薬と呼ばれる経口薬を服用しますが、「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」において、抗凝固薬のうちワルファリンの使用は、透析患者さんに対して原則禁忌とされています10。抗凝固薬は腎機能の悪い患者さんや透析患者さんへの使用に制限があるほか、副作用として出血が起こりやすいことが知られているため、担当医師の慎重な判断によって治療法が選択されます。最近では、心臓にある「左心耳」と呼ばれる部位を切除することで、血栓をできにくくする治療も行われています。
気になることがありましたら、必ず担当医師にご相談ください。
- 6. Wizemann V et al. Kidney Int. 2010; 77: 1098-1106.
- 7. 藤井秀毅ほか. 日本透析医学会雑誌. 2007; 40: 165-175.
- 8. Genovesi S et al. Am J Kidney Dis. 2006; 46: 897-902.
- 9. Inoue, H et al. Int J Cardiol. 2009; 137(2): 102-107.
- 10. 日本透析医学会「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」透析会誌 2011; 44(5): 337-425.
- 11. 日本透析医学会「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」透析会誌 2013; 46(7): 587-623.
心房細動と心不全
心房細動も心不全も、どちらも心臓の機能異常によって起こる病気です。これらの間には密接な関係があり、心不全患者さんは、そうでない方に比べて心房細動をより起こしやすく、また心房細動がある心不全患者さんは、そうでない方に比べて心不全がより増悪しやすいことが知られています。
さらに、心不全が悪化するほど心房細動になる確率は高くなり、重症度の高い心不全患者さんでは、約半数が心房細動を発症していることが報告されています12。
心房細動のある心不全患者さんの治療は、「心房細動によって心不全が増悪したのか?」もしくは「心不全の増悪によって心房細動が起こったのか?」の両方を確認しながら行われます。
頻脈誘発性心筋症による心不全
もともと心不全症状がない場合でも、心房細動になり頻脈になってしまうと、頻脈誘発性心筋症という病気になり、結果的に急性心不全になることがあります。特に高血圧により左心室が通常よりも肥大している方や肥大型心筋症と診断された患者さんに多く見られます。
心房細動を治療することで良好な予後が期待できる
心不全を増悪させないためには、さまざまな心不全治療や日常生活の注意が必要ですが、心房細動が増悪の一因となっている場合には、心房細動そのものを治療することで、心不全患者さんの予後が良好になる可能性があります。
心房細動の治療が重症心不全の予後に及ぼす影響
例えば、薬物療法により心房細動が改善した心不全患者さんでは、改善しなかった患者さんよりも生存期間が延びることが報告されています13。カテーテルアブレーションによる治療を受けた重症心不全患者さんは、薬物療法だけの患者さんよりも、死亡する割合または心不全の増悪で入院する割合が低いことが 報告されています14。
心不全患者さんが特に気を付けたいこと
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● お薬は指示通りに正しく服用する
心不全患者さんにとって、お薬を正しく、継続して服用することはとても大切です。心不全患者さんに処方されるお薬は、症状や心臓の状態により様々です。処方されたお薬は、医師や薬剤師の指示通りに正しく服用しましょう。
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● 水分と塩分は適度に摂取して、こまめに体重を管理する
塩分には、水をからだに溜める性質があるため、塩分を摂りすぎると血液量が増えて心臓への負担を増やしてしまいます。また、心不全患者さんは特にからだに水分が溜まりやすいため、水分自体も必要以上に摂りすぎないことが大切です。水分が溜まりすぎていないかを確認する意味でも、こまめに体重を測るようにしましょう。
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● 運動は心臓機能の状態にあわせて適度に制限する
心臓機能の状態によって運動制限は必要となりますが、過度の制限が逆効果になる場合もあります。医師の指示通りに、適切な運動制限を行うことが大切です。
心不全患者さん向け情報
心不全患者さん向けのより詳しい情報はこちら(外部サイト)をご確認ください。
- 12. CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987; 316: 1429-1435.
- 13. Deedwania PC et al. Circulation. 1998; 98: 2574-2579.
- 14. Marrouche NF et al. N Engl J Med. 2018; 378: 417-427.