心房細動のおはなし
不整脈のなかで最も多い病気である心房細動について理解しましょう
心房細動とは
心臓は、規則正しいリズムで前進に血液を送り出すポンプとして重要なはたらきをしています。(詳細については、心臓のはたらきにてお話しします。)
この規則正しいリズムは、心臓内で作り出される電気信号でコントロールされていますが、電気信号が乱れ、心臓の拍動リズムが不規則になる状態を不整脈といいます。
心房細動は、心臓の4つに分かれた部屋*のうち、「心房」と呼ばれる上の2つの部屋で生じた異常な電気的興奮により起こる不整脈です。心房細動が生じると、心房が痙攣したように震えて、結果として、脈が不規則に速くなるのが特徴です。
*心臓の4つに分かれた部屋のうち、上の2つの部屋を「心房」、下の2つの部屋を「心室」と呼びます。
日本では、心電図検査で心房細動と診断される患者さんが約80万人いらっしゃいます。また、潜在的な人も含めると心房細動患者さんは100万人を超すともいわれており1、心房細動は、糖尿病や高血圧症などと同じように一般的な病気といえるのです。心房細動の発症リスクは加齢とともに増加し、60歳代では100人中1人、80歳以上では100人中3.2人の割合で心房細動の患者さんがいると報告されています2。
心房細動は、発症後の発作(症状)の持続時間によって「発作性」・「持続性」・「長期持続性」に分類されます*。心房細動患者さんの約半数は、発症後7日以内に正常な脈(洞調律)に戻る発作性心房細動の患者さんですが3、発作性心房細動は治療せずに放置しておくと進行し4、発作(症状)の持続時間が長く(持続性心房細動/長期持続性心房細動)なります。また、心房細動が進行することで、塞栓症(血管に血栓が詰まる病気)や脳血管系の合併症の発症リスクが高まり、それに伴う死亡率も増加するといわれています5-7。
*図の破線が発作(症状)を表しています。心房細動を自然停止できない場合は「永続性心房細動」と分類されます。
- 1. Ohsawa, M et al. J Epidemiol. 2005; 15(5): 194-196.
- 2. Inoue, H et al. Int J Cardiol. 2009; 137(2): 102-107.
- 3. Akao, M et al. J Cardiol. 2013;61(4): 260-266.
- 4. Kerr, CR et al. Am Heart J. 2005; 149(3): 489-496.
- 5. Link, MS et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2017; 10: e004267.
- 6. Takabayashi, K et al. Stroke. 2015; 46: 3354-3361.
- 7. Deguchi, I et al. Eur J Neurol. 2015; 22(8): 1215-1219.
心房細動はなぜ怖い?
心房細動は、それ自体は死に直結する病気ではありません。しかし、心房細動が起こると、心房内から全身へ血液をうまく送り出せなくなり、血液の「よどみ」が生じて、血栓(血液のかたまり)ができやすくなります。この血栓が血流にのって脳にまで運ばれて、脳の血管を塞いでしまうのが脳梗塞です。
心房細動によってできる血栓は、他の原因でできる血栓よりも大きいことが知られています8。そのため、心房細動が原因で起こる脳梗塞(心原性脳塞栓症)は他の脳梗塞よりも病態が深刻です。後遺症が残ったり、死に至ったりするケースも多く、社会復帰できる確率は約50%と報告されています9。
脳梗塞で倒れられたスポーツ選手などの著名人には、実は、心房細動が原因で脳梗塞を発症された方もいらっしゃいました。心房細動の患者さんが脳梗塞を発症するリスクを評価する指標として、「CHADS2(チャッズ・ツー)スコア」や「HELT-E2S2(ヘルツ・イーツーエスツー)スコア」があります。これらのスコアが高いほど脳梗塞発症のリスクが高くなりますが、スコアが0点でも脳梗塞を発症するリスクがゼロではありません10,11。
心房細動における脳梗塞発症リスク評価
危険因子 | 点数 |
---|---|
心不全 | 1 |
高血圧 | 1 |
75歳以上 | 1 |
糖尿病 | 1 |
脳梗塞やTIA(一過性脳虚血発作)の既往 | 2 |
危険因子 | 点数 |
---|---|
高血圧 | 1 |
年齢 75 ~ 84 歳 | 1 |
BMI 18.5 未満 | 1 |
持続性/永続性心房細動 | 1 |
年齢 85 歳以上 | 2 |
脳卒中既往 | 2 |
心房細動は、治療を行わないで放っておくと発作性から持続性へと進行し、脳梗塞発症や死亡リスクがさらに上昇してしまいます。しかし、早い段階で治療を行うほど治療成績が高いことが期待されるため、できる限り早く心房細動に気づき、早期に適切な治療を行うことが重要です。
そのために重要なことは、「心房細動の検査」・「心房細動治療を受けるまでの流れ」・「自己検脈」にてお話しします。
- 8. 鄭秀明 Prog. Med. 1997; 17(11): 2979-2983.
- 9. 奥村謙, 目時典文, 萩井譲士. 心電図 2011; 31: 292-296.
- 10. Gage, BF et al. JAMA. 2001; 285(22): 2864-2870.
- 11. 2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療
心房細動ではどんな症状が起こるの?
心房細動では、胸部の不快感・胸の痛み・動悸・息苦しさ・運動時の疲労感・めまいなどの症状が起こります。しかし、約50%程度の患者さんは症状を自覚しないともいわれています12。とくに発作持続時間が短い発作性心房細動は、見つかりにくいため注意が必要です。
また、患者さんの中には脳梗塞になった後で実は心房細動だったと診断される方もいらっしゃいます。
- 12. Esato, M et al. Cest 2017; 152(6): 1266-1275.
心房細動になりやすいのはどんな人?
心房細動は加齢によって発症リスクが増加することから、誰にでも起こりうる病気です。若い世代にも起こりうる不整脈といわれています13。
加齢のほか、高血圧、弁膜症、狭心症、心不全、心筋梗塞などの心臓に関連した病気、そして意外にも糖尿病、また飲酒や喫煙の習慣がある方は、心房細動の発症リスクが高くなります14。
そのため、心房細動の発症および再発リスクを低減するためには、高血圧・糖尿病・睡眠時呼吸障害などの併存疾患の治療、および肥満・喫煙・過度の飲酒などの生活習慣の改善が大切だといわれています11。
ここからは、心房細動と他の疾患の関係についてお話しします。 気になる疾患を選んでください。
- 11. 2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療
- 13. 小坂 加麻理 et al, J-STAGE, 36:539-544, 2021
- 14. Schnabel, RB et al. Eur J Heart Fail. 2013; 15(8): 843-849.
心房細動の検査
心房細動の診断には、心電図検査で脈の乱れを確認することが必要です。
心房細動は、不規則な動悸や脈拍の乱れなどの自覚症状がある場合もあれば、自覚症状がない場合もあります。一度の検査で心房細動が見つからない場合でも、心房細動の症状をお持ちの方や心房細動になりやすいとされる方は、定期的な検査をおすすめします。
近年では、AppleWatchなどのスマートデバイスでも心電図を記録でき、日常的に装着して取得したデータを診療に用いることがあります。
12誘導心電図検査(体表面心電図検査)
ベッドに横になった状態で10か所に電極を張り付けて検査を行います。
健康診断でも用いられる、最も一般的な検査方法です。
ホルター心電図検査・イベントレコーダー検査
12誘導心電図検査(体表面心電図検査)では検出されにくい発作性心房細動が疑われる場合、ホルター心電計という携帯型の心電図計を用いて、24時間分などの心電図を記録します。
また、イベントレコーダーといわれる携帯型の心電図計を用いて、24時間分の心電図を連続記録します。イベントレコーダーを用いて、発作時のイベントのみを24時間以上記録する場合もあります。
心臓超音波(心エコー)検査
心臓の形や大きさ、また、血液を正常に送り出すのに重要な心房ー心室間にある弁(べん)の機能を調べるための検査です。より詳細な情報を得るために、心臓CT検査や心臓MRI検査を行う場合もあります。