心臓と不整脈のおはなし
心臓のはたらきと、不整脈(不規則な脈)について理解しましょう
心臓のはたらき
心臓は全身に血液を送り出すポンプのはたらきをしています。1日に約10万回、24時間休むことなく、心臓は収縮⇔拡張を繰り返しています。心臓はこぶしほどの大きさで、心筋(しんきん)という特殊な筋肉でできています。心臓の中は4つの部屋に分かれており、上側のふたつはそれぞれ左心房・右心房、下側のふたつは左心室・右心室と呼ばれています。
心房は心臓へと戻ってきた血液を受け取り、心室へと一方通行に送り出します。心房から血液を受け取った心室は、血液を送り出す役割を果たします。
この4つの部屋が連動よくリズミカルに拍動を繰り返すことで、心臓から全身に効率よく血液を送り出すことができます。送り出された血液は全身をめぐり、全身の細胞に必要な酸素と栄養分を供給します。
心臓内の電気信号の流れと心電図
心臓の規則正しい拍動は、心臓内の洞結節と呼ばれる場所で作り出される電気信号と、その電気信号の心臓全体への正常な伝達によってコントロールされています。この洞結節からは1分間に70回前後の電気信号が作られます。洞結節で作られた電気信号は、刺激伝導系と呼ばれる心臓内に張りめぐらされた電気信号の伝達路を通って心臓全体へと伝わっていきます。
まず電気信号は心房へ広がり心房の筋肉を収縮させます。続いて、心臓中心部にある房室結節と呼ばれる電気信号の中継所を通って左右の心室へと伝えられ、心室の筋肉を収縮させます。
このように、心房⇒心室の順に収縮することで、心臓全体が連動良くリズミカルに拍動し、血液を送り出すポンプとしての役割を果たします。
心電図は、この心房や心室に伝わる電気信号を検出して、その流れを波形として書き出したものです。心臓の病気では、心電図にも正常とは異なる変化が現れることがあります。医師はその心電図の波形の変化を読み取ることで、心臓の病気の診断に役立てています。
不整脈とは
不整脈とは、心臓の電気信号が正常なリズムや伝達路で伝達されなくなり、その結果として心臓の拍動が不規則になった状態のことを指します。
一概に不整脈といっても、たくさんの種類の不整脈があります。健康成人で不整脈が全くない人はいないといっても過言ではないほど、不整脈は身近で一般的なものです。不整脈による自覚症状の程度も様々で、日常生活に差し支えがある場合もありますし、自分では全く気付くことが出来ずに健康診断で初めて指摘されるような場合もあります。
心拍が正常よりも極端に多くなるタイプの不整脈では、動悸や息切れ・めまいなどの症状が現れることが多いです。 一方、心拍が正常よりも極端に少なくなるタイプの不整脈では、めまい・ふらつき・心拍出量低下による倦怠感などの症状が現れることが多いです。
不整脈に対する治療の必要が無い場合もありますが、不整脈により血圧が低下して失神やショックを起こしたり、突然死につながる危険性のある不整脈(致死性不整脈といいます)もあり、そのような場合は早期の治療が必要となります。
不整脈が生じやすくなる原因
不整脈の原因としてまず挙げられるのは、加齢です。年齢を重ねるにつれて、刺激伝導系(心臓内の電気信号の正常な伝達路)の働きが低下し、不整脈が生じやすくなると言われています。また、生まれつきこの刺激伝導系に異常を認めるような体質的な原因も挙げられます。
心筋梗塞や心筋症などは血管や心筋(心臓の筋肉)の病気であるため、刺激伝導系の病気である不整脈とは別の病気ですが、これらの他の心臓の病気があることで電気信号の異常が生じやすくなり、結果として不整脈を引き起こしやすくなることもあります。その他にも、心不全や高血圧、糖尿病などの病気も、不整脈の原因となります。更には、病気の治療のために服用している薬が不整脈を引き起こしてしまうこともあります。
また、ストレス・睡眠不足・疲労・喫煙・飲酒などの生活習慣によっても、不整脈は起こりやすくなります。
不整脈の分類
不整脈にはたくさんの種類がありますが、主に2つの分類方法によって大別されることが一般的です。
- 1. 心拍数による分類
- 2. 電気信号の異常が起こる部位による分類
1. 心拍数による分類
不整脈が起きたときの心臓の拍動の速さ(心拍数)による分類で、 次の3タイプに分けられます。
- ① 正常よりも脈が速くなる頻脈性不整脈
- ② 正常よりも脈が遅くなる徐脈性不整脈
- ③ 正常なリズムが乱れて脈が飛ぶ期外収縮
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① 頻脈性不整脈
1分間の心拍数が100回以上(健常成人の心拍数は通常65~80回程度です)になる不整脈です。
電気信号が異常に早いリズム・高頻度で作られてしまう場合や、電気信号の異常な伝達❝回路❞が出来てしまい電気信号が回り続けてしまうことが原因で発生します。
頻脈性不整脈の症状としては、主に動悸・めまいなどの脳貧血症状があります。 -
② 徐脈性不整脈
1分間の心拍数が50回以下になる不整脈です。
刺激伝導系の機能が低下して、心臓の中で電気信号が作られにくくなったり、電気信号が途中で途切れてしまうことで起こる不整脈です。
徐脈性不整脈の症状としては、めまい・失神などの症状が現れることがあります。 -
③ 期外収縮
本来電気信号を作り出す役割を担っている洞結節とは異なる場所から、時々不規則な信号が出てくることで起こる不整脈です。
期外収縮の症状としては、脈の飛ぶような感覚・のどが詰まるような感覚・胸がぎゅっとなる感覚などがあります。
2. 電気信号の異常が起こる部位による分類
不整脈が起きたときの異常な電気信号が関与する部位による分類で、次の2つに大別されます。
- ① 心房での電気的な異常が関与する上室性不整脈
- ② 心室での電気的な異常が関与する心室性不整脈
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① 上室性不整脈
心室より上部にある、心房の心筋や洞結節・房室結節などの異常により生じる不整脈です。
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② 心室性不整脈
心室の心筋やヒス束、右脚・左脚、プルキンエ線維などの異常により生じる不整脈です。
不整脈の種類
代表的な不整脈をそれぞれ分類すると、下の表のようになります。
不整脈には多くの種類があり、それぞれ症状や発生する仕組みが異なります。
中には突然死につながる危険性のある不整脈もあります。
以下で、それぞれについてご説明します。
カテーテルアブレーションの治療対象となりうる不整脈については、下表にて太字でお示ししています。
- 心房細動
- 発作性心房細動
- 持続性心房細動
- 長期持続性心房細動
- 心房粗動
- 発作性上室性頻拍
- 房室結節リエントリー性頻拍
- 房室回帰性頻拍
- 心房頻拍
- 心室頻拍
- 心室細動
- 洞不全症候群
- 房室ブロック
- 上室性期外収縮
- 心室性期外収縮
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● 心房細動
最も一般的で罹患率の高い不整脈です。心房の中で不規則に電気信号が発生し、心房が痙攣したような状態になります。心房の拍動数は11分間に300回以上となり、心臓が不規則に拍動することで、動悸を感じることがあります。加齢とともに発生率は高くなり、特に60歳を境に急激に頻度が高まります1。男性は女性に比べて約1.5倍心房細動を発症しやすいと言われています2。心臓の中の肺静脈という場所から発生する異常な電気信号が、心房細動の主な引き金になっていることが明らかになりました3。
- 1. Feinberg WM, et al. 1995 より
- 2. Framingham 研究(Kannel WB, et al. 1998)より
- 3. Haïssaguerre M, et al. 1998より
心房細動は、持続する期間によって発作性・持続性・長期持続性に分類されます。発作性心房細動の症状は一時的であるため、自覚症状があっても病院では異常な心電図が記録されにくいという特徴があります。心房細動が起こると、心房は十分な血液を心室へ送り出す役割を果たせなくなってしまいます。心房細動の持続期間は、初めのうちは長くありませんが、治療せずに放置していると、より心房細動が長く持続するように進行してしまいます。
心房細動が起きると、心房の中で血液が滞留しやすく(血流がよどみやすく)なってしまいます。血液が滞留することで血液が凝固して血のかたまり(血栓)になる可能性が高まり、この血栓が他の臓器の動脈を塞いで血栓症(脳梗塞などの全身性塞栓)を引き起こすことがあります。心房細動のある人では、脳梗塞の発生リスクが、正常な心拍の人に比べて2~7倍高いことが知られています4-6。また、心房細動により心臓に負担がかかり続けることから、心房細動は心不全の原因にもなります。
- 4. Wolf PA, et al. 1991 より
- 5. Krahn AD, et al. 1995 より
- 6. Levy S, et al. 1999 より
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・発作性心房細動
発症後7日以内に自然に洞調律(正常な心拍の状態)に復する心房細動です。
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・持続性心房細動
発症後7日を超えて持続する心房細動です。
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・長期持続性心房細動
発症後1年以上持続する心房細動です。
心房細動については、「心房細動」のページでより詳細に説明しています。
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● 心房粗動
心房が毎分250~350回と非常に速くかつ規則的に収縮する状態の不整脈です。多くの場合は右心房を円形に電気信号が回り続ける異常な電気回路が原因で発生します。心房の収縮を起こす電気信号のうち、房室結節を介して心室まで伝達されるのは一部だけのため、実際の脈拍数が毎分250回以上になるようなことはほとんどありません。
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● 発作性上室性頻拍
突発的に生じる不整脈です。発作性上室性頻拍が生じると、心拍数が140~200回/分になり、突然動悸が発生し、重症な場合はめまいや失神が起きることもあります。電気的な異常が心室よりも上側の心房・房室結節の領域に存在し、その部位によってさらに房室結節リエントリー性頻拍・房室回帰性頻拍・心房頻拍などに細かく分けられます。
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・房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)
房室結節の近くには電気信号の伝わる速さが異なる2つの伝達路が同時に存在することがあり、房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)は、この2つの経路をループ状に電気信号が回り続けることによって生じる不整脈です。この不整脈では、電気信号が房室結節の近くを回り続けることで、心房と心室を絶え間なく拍動させてしまうため、頻脈性の不整脈になります。
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・房室回帰性頻拍(WPW症候群)
正常な電気信号の通り道(正常伝導路)の他に、心室と心房を逆方向に結ぶ異常な電気信号の通り道(副伝導路)が存在することがあります。房室回帰性頻拍は、一度心室へ伝わった電気信号がこの副伝導路を通って再び心房へ戻ってきてしまうことで生じる不整脈です。この不整脈では、電気信号が副伝導路を介してループして回り続けるために、心臓が絶え間なく拍動し、頻脈性の不整脈になります。
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・心房頻拍
心房内に異常な電気信号を発生する部位が存在することで生じる不整脈です 。
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● 心室頻拍
心室は心臓から全身に血液を送り出す重要なはたらきをしているため、長時間にわたってこのポンプ機能が低下してしまうと、命にかかわる危険な状態に陥ります。心室頻拍もそうした危険な不整脈の1 つです。薬の投与や、発作より早いテンポで心臓に刺激を与えることで治まることもありますが、電気ショックや心臓マッサージが必要となることもあります。心室頻拍には、原因がはっきりしない特発性心室頻拍と、心筋梗塞や心筋症などの心臓病が原因で起こる心室頻拍があります。
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・特発性心室頻拍
心室内に異常な電気信号を発生する部位が存在することで生じる不整脈です。
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・心臓病が原因で起こる心室頻拍
心筋梗塞などの心臓病によって傷害を受けた心筋の周囲に、電気信号の異常な伝達回路が形成され、電気信号が回り続けて心室を頻回に拍動させてしまうことで生じる不整脈です。原因となる異常な伝達回路のパターンは、患者さんによって様々です。
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● 心室細動
心房細動のような心臓の痙攣が心室で起こっている状態の不整脈です。
一度心室細動が起こると、心臓のポンプ機能は停止し、血液の流れが止まります。3~5秒でめまいが起こり、5~15秒で意識を失い、3~5分続くと脳死の状態になるといわれています。心室細動がいったん起こると自然に回復することはほとんどなく、そのまま治療されなければ死亡してしまう可能性が高いので、迅速な対応が必要です。
治療のために、除細動器(AEDなど)により電気ショックをあたえます。 -
● 洞不全症候群
1分間の心拍数が50回以下の状態が続いたり、洞結節の動きが一時的に止まり電気信号を送ることができなくなったりする不整脈です。
洞不全症候群が生じると、息切れや易疲労感を自覚する場合もありますが、重症な場合では失神が生じます。 -
● 房室ブロック
心房から心室への刺激伝導が阻害されている状態の不整脈です。
房室ブロックが生じると、心室は心房と連動できず、心房から独立した遅いリズムで収縮します。その結果、脳や全身に必要な血液が十分に行きわたらなくなり、意識を失う・生命に関わるような状態となる場合もあります。 -
● 上室性期外収縮
規則正しい正常な脈の間に、異常な電気信号が突然出現し、心臓が不規則に拍動してしまうものを期外収縮といいます。その中でも、心房内の部位が原因として起こる期外収縮を上室性期外収縮といいます。
期外収縮自体は、治療を必要とせず特に問題がないことも多いですが、頻発する場合や自覚症状が強い場合は治療の対象となります。 -
● 心室性期外収縮
心室で発生する期外収縮を指します。その中でも、1日に3,000回以上、期外収縮が現れる場合は頻発性と呼ばれます。心室性期外収縮では、治療が必要ない場合が多いですが、心室頻拍や心室細動に繋がる可能性が高い場合は治療が必要になります。
不整脈の診断方法
不規則な脈拍や動悸などの症状がある場合、医療機関を受診し心電図検査を受けることで、不整脈が見つかることがあります。12誘導心電図は健康診断などで実施されることも多く最も一般的な方法です。
しかしながら、心房細動の中でも発作性心房細動は一時的にしか症状が発症しないため、診断が難しいと言われています。このように通常の心電図検査で不整脈を見つけることが難しい場合は、ホルター心電図という小型の心電計を装着して、24時間などの心電図検査を実施する方法もあります。もしくは、市販の携帯型心電図計やイベントレコーダーを使用することで、日常生活の中で心内電位を記録することができます。
近年では、AppleWatchなどのスマートデバイスでも心電図を記録でき、日常的に装着して取得したデータを診療に用いることがあります。
12誘導心電図
ホルター心電図
そもそも、心房細動が起きていても自覚症状がない場合があります。その場合は病院へ行くのが難しく、診断されないまま不整脈が重症化してしまうことがあります。そのため、特に不整脈になりやすいとされている要素をお持ちの方*は、症状がなくても定期的に検査を受けることをお薦めします。*高齢、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、弁膜症など
また近年では、原因を特定できない脳梗塞や繰り返す湿疹の経験がある患者さんに対して、植込み式心電計を用いることで、脳梗塞や失神の原因が不整脈であると判明することがあります。
不整脈の治療
不整脈の治療は、原因となる疾患、その他の病気や治療による身体への影響など、様々な問題を考慮して決定されます。治療法は、薬を使った「薬物療法」と薬以外による「非薬物療法」の2つに大きく分けられます。これらの治療が単独で行われる場合もあれば、併用されることもあります。
薬を使った治療(薬物療法)
薬を使った不整脈の治療は、頻脈性不整脈に対して、主に抗不整脈薬を使用して行われます。徐脈に対しては、非薬物療法のペースメーカーが第一選択ですが、症状が軽い場合に薬物療法が行われることもあります。期外収縮で薬物療法が行われることは多くありませんが、症状が強い場合には薬物療法が行われます。
薬以外による治療(非薬物療法)
薬以外の治療法としては、ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)などの医療機器を体内に植え込むデバイス治療、カテーテルアブレーション、外科的心臓手術などがあります。
アブレーション
ペースメーカーは徐脈性不整脈の治療に使用されます。体内に植え込まれた機器から、心臓へ一定のリズムで電気信号を送り、心臓の拍動を助けます。
ICDは、突然死の原因となる心室性の頻脈性不整脈に対して使用されます。
カテーテルアブレーションや外科的心臓手術は、不整脈の発生源や異常な電気信号の回路を遮断することで根治を目指す治療法です。
心房細動に対するカテーテルアブレーションの詳細は、「カテーテルアブレーション治療のおはなし」のパートにてご説明します。